市販される学術書とは、「学問の真理」を市場で売ることを目的としています。学問的真理は市場から独立している必要があります。しかし、まったく売れなかったら社会にその主張を届けることができません。そこには、「経済的なリスク」と同時に「コミュニケーションのリスク」が存在します。その調整をするために「学術書の編集者」が存在する、と著者は考えています。著者は「山人」というカテゴリーを好むそうです。
これは、もともとは塵俗を山林に避けた隠者のことですが、やがて世間に入って、儒と商、士と民衆をつなぐ中間的な職業知識人のことを言うようになった言葉だそうです(平賀源内は「風来山人」を名乗っています)。私は「コーディネーター」でも良いのではないか、とも思いますが、言葉のシニフィアンよりはシニフィエの方に注目するべきでしょうね。
編集者はまず「挑発」を行います。それによって学者や研究者は「新しい何か(原稿)」を生み出します。その時編集者は「非専門家」としての立場にあります。著者は実際に出版した一冊の本をケースとして取り上げ、具体的に学術書がどのように生み出されたかを紹介してくれます。いや、大サービスです。
しかし、本体5500円、初刷1200部、半年後の実売が800部の本が「好評」と評価できるとは、いわゆる「ベストセラー」とはずいぶん違う世界のお話ですね。